九月十三夜陣中の作 上杉謙信
霜は軍営 に満ちて秋 気清
数行 の過雁月三更
越山併せ得たり 能州の景
遮莫家 郷 の 遠征を思うを
作者・上杉謙信(1530〜1578)は、越後・春日山城(新潟県上越市)の山内上杉家十六代当主。屈指の戦上手とされ、後世に「越後の龍」と称されました。この漢詩は、天正五年(1577年)に能登畠山家の重臣・長続連率いる畠山軍と戦った「七尾城の戦い」にて、兵士の慰労を兼ねた月見の宴で詠んだものとされています。
振付例としては、戦を終えた謙信が、興奮冷めやらぬまま、陣地に戻って来ます(登場)。秋の夜のすがすがしい冷気の中、空を見上げると月光の下を雁が飛んでゆきます。そして激しい戦を回想して刀を振り、勝利によって手に入れた山々の景色を悠然と眺めます。ふと、故郷で我が身を心配する家族のことを思い出しますが、今は仕方ないのだと自らに言い聞かせ、次の戦地に赴くのです(退場)。
なお、謙信は生涯この一作しか漢詩を遺していません。それにも関わらず大変風雅な作品であることから、実は謙信自身の作品ではなく、ゴーストライターによるものだという説があります。